【コーチングが機能しない理由】あなたが「問題の一部」になっていませんか?

「どれだけコーチングをしても、相手が変わらない」
「面談を繰り返しているのに、部下の行動が改善しない」
「信頼関係はあると思っていたのに、なぜか伝わらない」
もしあなたがマネージャーやリーダーとして部下に対してコーチング的な関わりをしようとしているなら、こうした経験に心当たりがあるかもしれません。実は、その“うまくいかない理由”には、コーチングの前提に関わる「とても重要な落とし穴」が潜んでいるのです。
今回はその核心に迫っていきます。
コーチは「問題の一部」であってはならない
コーチングの世界で非常に大切な前提があります。
「コーチはクライアントの問題の一部であってはならない」
これはつまり、クライアント(部下や相談者)が抱えている問題の“原因”に、少しでもコーチ自身が関与していたら、コーチングは機能しづらいということです。
例えば、部下がこんなふうに感じていたらどうでしょう?
- 「上司がいつも感情的で話しづらい」
- 「この人に話してもどうせ評価に影響する」
- 「正直、信頼できない」
もしあなたが部下にとって“問題の一部”になっているとしたら、いくら「傾聴」や「質問技術」を駆使しても、部下は本音を話しません。なぜなら、彼らは心のどこかでこう感じているからです。
「この人に本音を話すと、むしろ不利になるかもしれない」
ラポール(信頼関係)がないコーチングは、ただのテクニックの押し付け
ここで鍵となるのが ラポール(信頼関係) です。
どれだけ素晴らしいコーチング技術を学んでも、ラポールがなければ機能しません。
ラポールとは、心理学的な「安心の土台」。
「この人には安心して話せる」「ジャッジされない」という無意識レベルの信頼です。
ラポールが築かれているとき、相手は自然と心を開き、自分自身の可能性や本音に向き合おうとします。
逆に、表面的にどれだけ笑顔で接していても、心の底で「この人には言えない」と思われていたら、そこに“変化”は生まれません。
上司は、コーチにはなれないのか?
「じゃあ、上司が部下にコーチングするのは無理なのか?」
そう思われたかもしれません。
結論から言えば、「難しいけれど、可能」 です。
ただし、そこには明確な線引きが必要です。
コーチとマネージャーの違い
視点 | コーチ | マネージャー(上司) |
---|---|---|
関係性 | 対等(パートナー) | 上下(指示・評価) |
ゴール | 本人が決める | 組織の成果に沿う |
スタンス | 支援・引き出す | 管理・指導する |
上司がコーチングを活かすなら、「コーチの視点」と「マネージャーの視点」を意図的に切り替える力が必要です。
特に、コーチングを行う時間は、評価や指導の文脈を一旦脇に置く必要があります。
「今日はマネージャーではなく、“コーチ”として関わります」と事前に伝えるだけでも、部下の心理的安全性は大きく変わります。
真のコーチングは、“評価の外”にある
本音で話せるかどうかを決めるのは、相手の感覚です。
つまり、部下が「安心できる」「この人は自分の話をジャッジしない」と感じられるかどうか。
ここでひとつ、印象的なエピソードをご紹介しましょう。
ある企業の管理職研修で、コーチングを学んだマネージャーが「部下に傾聴しているのに変化がない」と悩んでいました。
よく話を聞いてみると、実はそのマネージャーは、数ヶ月前に部下のミスを強く叱責しており、部下にとっては「この人に弱みを見せるとまた怒られる」という無意識の恐れが残っていたのです。
技術の前に、まず「安心できる関係性」を取り戻す必要があったというわけです。
これは多くの職場でも起きていることでしょう。
コーチングが“効かない”のではなく、スタート地点に立てていないのです。
問題の「外」に立つからこそ、相手は自分と向き合える
プロのコーチは、クライアントの人生に直接的な利害関係を持ちません。
だからこそ、相手は本音で語り、深い気づきを得られます。
同じように、職場であっても、上司が「私はあなたの味方です」「あなたの内側にある可能性に関心があります」と伝え、評価や利害を手放す姿勢を見せたとき、関係性は変わり始めます。
つまり、
「私はあなたの問題ではなく、あなたの支援者でいたい」
というスタンスに立てるかどうかが、コーチングの質を左右するのです。
コーチングは魔法ではない。だからこそ、関係性がすべて
最後に、大切なことをお伝えします。
コーチングは万能なスキルではありません。
しかし、信頼という土壌の上に正しく使われたとき、驚くほど深い変化をもたらします。
だからこそ、
相手との関係性が壊れているとき、自分自身が相手の「問題の一部」になっているときは、まずそこに向き合うことが、何よりも大切です。
まとめ:あなたは「問題」ではなく「支援者」であれるか
コーチングを始める前に、自分に問いかけてみてください。
- 私は、この人にとって安心できる存在だろうか?
- 私は、この人の話を、評価や指導の視点を外して聴けるだろうか?
- 私は、変えようとしているのではなく、引き出そうとしているだろうか?
もし「Yes」と言えるなら、あなたの関わりは、きっと相手の可能性を開く力になります。
人が変わるのは、“安心して話せる誰か”に出会ったときです。
あなたがその「誰か」になれますように。